The previous night of the world revolution
体調が悪い日だったら困るなと思っていたが、幸い今日は調子は良いようだった。

時折、十日に一日くらい…ルシファーは物凄く、調子が悪くなる日がある。

そういう日は、もう面会は出来ない。我を忘れて錯乱したり、髪や身体をかきむしったり、言葉にならない声で叫んだりと、痛々しくて見ていられない。

鎮静剤を打たれて身体を拘束される彼の姿を、オルタンスが見たらどう思うだろう。

いずれにしても、あの男ともう一度会う日が来たら…撃ち殺してやりたかった。

調子が悪くなるきっかけは分からない。どうやら不意に、頭の中によぎるらしい。

いじめられていたときの記憶や、帝国騎士団に裏切られたときのことが。

それで感情が抑えられなくなったとき、彼は錯乱する。

けれども今日は、大丈夫なようだった。

相変わらず彼の目の前には、手付かずの病院食が置かれていた。

まぁ、今日はそっちは食べなくても良い。

「ルシファー。昨日言ってただろ?俺が作ってきてやるって」

「…」

「約束通り作ってきたから、食べてみてくれ」

俺は持参したランチボックスを、彼の前に並べた。

ルシファーはそれらをじっ、と見つめていた。

放っといても自分からは食べないだろうなと思って、俺は彼の左手を取って、スプーンを握らせた。

「はい、どうぞ」

「…」

このまましばらく待ってたら、多分のろのろ動き出すだろう。

彼は起動が遅いだけだ。のろのろでも良いから食べてくれれば。

と、思っていたが、今日は比較的早かった。

ルシファーは無言でスプーンをゆったり動かし、ランチボックスから口までの長い距離を移動して、もぐ、と一口食べてくれた。

…おぉ。今日は本当に調子良いな。

「…どうだ?」

不味いって言われたら、俺は明日から料理教室に通おう。

「…」

ルシファーはちらりとこちらを向いて、もぐもぐしていた。

多分、何かを言いたいのだろうけど、咀嚼する方に数少ない全労力を費やしているのだろう。何も言わなかった。

だが、ゆっくりゆっくりと、億劫そうにだが、一応食べてくれてはいるので。

どうやら、そんなに悪くはないのだろう。良かった。

常人の十倍くらいの時間をかけて、雑炊を四口くらい口に運んでから、ルシファーは口パクで何か言った。

このパターンもよくある。喋ってるつもりだけど音声にならない。

だから俺は、唇の動きで彼が何を言いたいのか推し測らなければならない。

他の人間相手なら全然分からないのだけど、不思議と俺はそういうとき、彼の言いたいことをかなりの的中率で当てられるのだ。

「…あぁ。疑ってたのか?俺はそれなりに料理は出来るんだぞ、実は」

「…ルル公。今ルシ公何て言ったの?」

ルシファーの口パクが読めなかったらしいアリューシャは、頭を捻っていた。

「本当に料理出来るとは思わなかった的なことを言われた」

「そんなこと言ったの?ルシ公」

ルシファーは、少しだけはにかんで、小さく頷いた。

俺の意志疎通能力は凄まじいな。ルシファー限定だけど。

自分の言いたいことを理解してくれる人がいるっていうのは、きっとそれだけで、彼にとって多少なりとも慰めになるはずだ。
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