うみに溺れる。
その時点では不思議と冷静で。
小さい頃の記憶が段々と脳裏を過った。
生まれた頃は両親も仲が良く幸せだった事、
空人と海に初めて出会った時の事、
父親が急に暴力を振るうようになった事、
初めて父親に殴られた日の事。
海の笑顔に、荒んでいた僕の心が癒された事。
いつの間にか僕は海の事を目で追っていた。
空人もまた、僕と同じ表情で海を目で追っているのに気付き醜い黒い感情が湧き出た事。
できることなら海の傍に、温かい空気に包まれて笑って過ごしたかった。
でも多分、それは僕だけが感じる事だろう。
海は僕にそうさせても、僕は海に同じように感じさせることができただろうか。
……いや、きっとできない。
僕はその温かいものを知らないから。
海には僕の事を忘れてこれからを過ごしてほしいのに、僕は海で死ぬ事を選んだ。
文字通り僕は海に溺れていて、溺れて死ぬんだ。