Rescue Me
 私はそんな焦っている彼らを見て申し訳ない気持ちになり、何とか百合子夫人の言葉を冗談でかわそうとした。

 すると先ほどから黙って成り行きを見ていた颯人さんがいきなり口を開いた。

 「実は孫ができるのは少し待ってもらっているんです。どうしてもわたしがもう少し妻を独り占めしたくて。確かに子供も可愛いのかもしれませんが、今は妻が可愛くて仕方がないんです。それに子供が出来てしまったら、妻に毎晩している遊びができなくなってしまう。ベッドに縛り付けられてお仕置きを受けながら可愛く啼いている妻を、流石に子供には見せられませんからね」

 颯人さんはニコリと微笑むと、私の頬にキスをした。

 皆が一斉に目を見開いて私と颯人さんを見た。

 ── なななんて事を言うの……!

 「ち、違うの……!」

 私は真っ赤になりながら呆然としている両親や莉華子さんに何とか説明をしようとした。そもそもそんな事したことなんてないのに!

 翠は俯いて肩を震わせている。絶対にこの状況を面白がっているに違いない。

 「ん─… もう忘れたのか? またお仕置きか……?」

 颯人さんはわざと皆に聞こえるように私にそう囁き、先ほどから真っ青になったり真っ赤になっている百合子夫人にさらに追い打ちをかける。

 「ちょっと颯人さん、一体何を言って ──…」

 そう言いかけた時、颯人さんがイタズラっぽく笑って私を見ているのに気付いた。そして同時に、そう言えば以前、彼に一度だけそんな感じでベッドで抱かれた事があることを思い出した。

 もちろん本気で縛られたわけではない。確かあれは去年の4月、結婚して彼の出張に初めてついて来た時だった。

 夜に二人でチェスをしていて、ゲームに負け続けた私は悔し紛れに彼が見てない隙にクイーンを勝手に動かした。それを見つかってしまい、颯人さんが「お仕置き」と言って両手首を縛ると私が本気で何度も謝るまで散々くすぐられた。

 そしてその後、彼にベッドに押し倒され一晩中抱かれた事があった事を思い出した。

 今思えばあんなに楽しくただ愛を深めるだけに抱き合ったのはあれが最後だった様な気がする。

 あの後私は卵巣に腫瘍が見つかり手術をし、そして回復後はすぐに不妊治療を始めた。あの頃からセックスは子供を作る為だけの行為になってしまった気がする。

 私は目の前で悪戯っぽく笑っている颯人さんを見つめた。

 急に薫がビーチで私に言った言葉を思い出した。もしかして私は妊娠する事で頭が一杯で、目の前にある大切なものを見失っていたのではないだろうか……?

 「颯人さん……」

 急に彼に謝りたくて、そして抱きしめたくなって、彼の手を握った。
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