ファンは恋をしないのです
「二階堂が強引でごめんなさい。…あの、大丈夫ですか?」
「…すみません…こちらこそ、こんなご迷惑を…。」
「なんでそっち二人は謝ってばっかなわけ?」
「そうそう!ただ一緒に飲むだけなんだし、プライベート根掘り葉掘り聞いて、世界中に発信しようとしてるわけでもないんだからさ。」
「怜花ちゃん、怖いこと言うね…。」
「私たちは口が堅い系のオタクだから声かけても大丈夫ですけど、普通はダメですからね。」
「私たちでも駄目だよ!」

 怜花の言うことももっともだが、自分たちを特別視してもいい理由もない。

「…里依さん、ちょっとだけでいいので話を聞かせてもらえませんか?」
「え…?」

 割って入ったのは三澄だった。自分の名前が呼ばれて、里依は咄嗟に顔を上げてしまった。本当に真横に(席を移動したのだから当たり前)三澄がいる。ステージに立っていた、あの三澄が。

「この前、ここで感想を話してくれていたじゃないですか。ファンの方の感想を直接聞ける機会ってないから、ライブの感想を…できればもっと聞きたいなと…。」
「っ…せ、先日は…し、失礼なことを…言って…なかったと…思いたいんですが…。」
「全く!全然!失礼なことは何も!というか嬉しいことしか話してなかったんで…。まだ感想があるなら聞きたいんですけど…。」
「二人で行ったんだよね、あのライブ。怜花ちゃんはどこ推しなの?」
「私はラブスタなんです。だから今回は里依の推し、フォーカクが出るからってことで付き合い参戦でした。」
「へぇ、そうなんだ。じゃあ次のライブを当てなきゃじゃん。」
「そうなんですよー!」

 里依は怜花と二階堂を交互に見つめた。初対面で、こんなにサクサクと話せるものなのか、と疑問しか浮かばない。

「それで、フォーカクはどうだった?」
「えっ…。」
「だって三澄の話ばっかしてたけどさ、本当はフォーカク推しなんだよね?」
「そ、それはそうなんですけど…。」
「俺も感想聞きたい。ちゃんとフォーカク、そこにいた?」

 里依はぐっと両手に力を込めてぐっと握った。本当は声優と居酒屋で出くわして、こんな風に普通に話してはいけない。だが、本人たちに聞きたいと言われている感想を言わないこともまた同時に、失礼だと思ってしまった。
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