ファンは恋をしないのです
「…落ち着いては…その、話せないですよ…だってイベントみたいなものです。」
「イベント!そっか。里依さんにとってはイベントだったんですね、今日の。」
「大イベントですよ!しかも予告なしの!」

 思わず前のめりになった里依に、二階堂はひーと声を出しながら笑う。

「はー…おもしろ。そっかそっか。告知なしのゲリラ居酒屋イベントだったわけね。その割には怜花ちゃんは全然動じてなかったけど。」
「私は里依と違って、またエンカウントしたら面白いかもしれないなーって思ってましたし。里依みたいに、絶対に会いたくない!会っちゃだめ!とも思ってないですし。会っちゃったらこっちのもんでしょ、くらいなものです。」
「すごー両極端!」
「だから里依と仲がいいんですよ。お互いを否定し合わないし、推しが被って解釈違いでもめることもない。ね?」
「怜花がおかしいのであって、私は普通です!私が一般常識です!」
「…里依さんがそういう考えの人だから、会って直接感想が聞けたらなって思いました。もしSNSで全部載せたいとか、そういう感じの話をしていたら、俺も二階堂もそう思わなかったと思うから、…そういう、なんていうのかな…真っすぐに応援してくれるの、本当にありがたくて嬉しいです。重ね重ね、ありがとうございます。」

 三澄は静かに頭を下げた。その三澄の背中をバシッと二階堂が叩く。

「いった!」
「感化されて真面目モードで面白いな、三澄。普段はもっとくだけた普通のやつなんだけど、多分イメージ崩さないように頑張っててこんな感じ。」
「二階堂!」
「今日は二人ともありがとな。夜遅いし、得体のしれない声優でよければ送っていくけど、どうします?」
「いいんですか?」
「だめだよ怜花!だめに決まってるでしょ!帰るよ!後ろは振り返らない!絶対これだけは私に従って!」

 またしても対照的な反応に、二階堂は笑った。

「本当にすみませんでした!ほら、怜花!」
「あっ、いった!ちょっと!あ、ありがとうございましたー!」

 ぐいぐいと、華奢な見た目からは感じられない強い勢いで怜花を引っ張って、決して後ろを振り返らない里依に、三澄は笑った。

「おやぁ?何その笑いは。」
「いや、可愛い人だなって思って。」
「どっちが?」
「二人とも素直で、仲がよくて可愛いと思うよ。」
「でも、お前の視線はすっげー正直だったけどな。」
「…それを本人の前で言わないでくれたことだけは感謝してる。」

(きっと、馬鹿正直に話してしまったら、二度と目が合わなくなっちゃうだろうしな。)
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