ファンは恋をしないのです
「…ライブビューイングは危なすぎるので、配信チケットで見る…っていうので良ければ。」
「いいんですか?」
「…だってその、三澄さんと話すのもお会いするのも…ファンとしてはだめだってわかってるけど、『嫌』ではないので…。」

 三澄の言葉をまっすぐ受け取って返すなら、こう言わざるを得ない。卑怯なことをしていると思う。それでも、こんな風に目の前で嬉しそうにニコニコと微笑む三澄を見てしまったら、拒絶することが難しすぎる。

「配信チケットということは、家で見る感じってことですかね?」
「あ、はい。いつも私はタブレットをテレビに繋いで観てます。」
「ということは、僕が里依さんの家に行く?それとも里依さんが僕の家に来る…?」
「はっ!あっ、待ってください!そっちの方が断然まずいですね!でもライビュ会場は東京とかだと満席になっちゃうから人が多いし、密室でばれたら囲まれちゃうし…。だけど私が万が一三澄さんの家から出てくるところを激写されたら大迷惑になってしまいますし、かといって三澄さんが私の家から出てきてもまずい…。や、やっぱりだめかもしれません…。」
「あの、里依さん。」
「は、はいっ!」
「里依さんの心配してるところはどの点ですか?」

 改めて問われて、里依はゆっくりと問題点を挙げてみる。

「人目という点ではお家で鑑賞の方が安全かなって思うのですが、部屋に入るとき、もしくは出るときが危ないかなと思っています。」
「…ごめん、自分で提案しておいてなんだけど、付き合ってもない男が家に来ることとか、付き合ってもない男の家に行くことへの不安とか警戒心とかは…ない?」
「はっ!あっ!そ、そうですよね!あ、あの、三澄さんのことを男性と認識していないとかそういうことじゃなくてですね、あの…三澄さんと付き合ってないことは当然で、なおかつその、そういう恋愛関係に…なれるはずもない…と言いますか、はい。だからそういう警戒心とか…考えていませんでした。男の人と遊び慣れてるとか、そういうんじゃないんです。誤解しないでください。」

 思考が飛びまくって、変なところに落ち着いてしまったが指摘されてみれば、付き合ってもないのに家に行くなんて変だ。しかし、自分が襲われるかもしれないなんてことは本当に微塵も考えなかった。三澄の顔が見れなくて、里依の視線は下へと沈んでいく。
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