ファンは恋をしないのです
* * *

(…あの日みたいに、可愛い。)

 指に一つずつリングライトをはめて、手を開いたり強く握ったりしながら準備を着々と進めていく里依を見ていると、三澄の口元が緩んだ。あまり情けない顔は見せたくないと思いつつ、顔はゆるゆると緩んでいく。

「三澄さんも思っていたよりたくさん持ってますね。」
「スモハニで揃うとみんなでトレーディング買ってみる?とか言って買ってみちゃうからかも。」
「うわぁ!そんな楽しそうな企画が…!」
「トレーディングは、絶対欲しいとか思うと辛くなるからこうやってみんなでやって、楽しいことをしたって思うことにしてる。」
「なるほど!確かにそれは素敵です!」

 家に到着したときは少し色々なことを心配した様子できょろきょろしていた彼女が、いざライブが近付くと、少しずつ緊張が解けたかのように微笑んでくれる。その笑顔一つで静かに心が高鳴る自分を感じていた。だが、それをあからさまに彼女に出してしまうときっと困らせる。せっかく笑ってくれているのに、水を差したくはなかった。

「リングライトって、つけるときにこだわりはあるんですか?」
「…そうですね、一応その、左手の薬指だけ、ちょっと気をつけます。」
「気をつける?」

 里依がこっくりと頷いた。『気をつける』とはなんだろう。そこにははめない、ということだろうか。

「今一番好きな人は誰かなってちょっと考えてからつけます。」

 里依の左手の薬指にはまだリングライトがついていなかった。今の里依の『一番』は誰なのだろう。訊いてみたいような、答えによっては嫉妬してしまいそうな(可能性としては二階堂に)気もする。

「今日は朋希くんでいきます!」

 ほんのりと染まった頬。照れたような表情で、目はあっちこっちに泳いでいる。そんな風になりながらもそう言ってくれたことが嬉しくて、三澄は笑顔を返す。

「ありがとう。俺も朋希くんのリングライト、同じところにする。」

 一番新しいリングライトを、左手の薬指にはめる。どの指にはめるかなんて今まで考えたこともなかったのに、今はいつもより少し心が弾む。里依の言葉を借りれば、『キラキラ』している。

「お揃い。」
「お、お…恐れ多い…ですっ…!」

 全く目が合わなくなってしまって、それにも三澄はつい笑ってしまう。里依はリングライトがたくさんついた手で自分の顔をあおいでいた。
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