ファンは恋をしないのです
 配信では、実際のライブの開始時刻の15分前から現地の映像を見ることができた。テーブルの上に軽く飲み物を用意し、指にはリングライト、手にはペンライト、膝にはワイドバスタオルを置いてソファに二人並んで座る。最初、里依は床に座ると言ったが、それなら自分もと三澄が言うとスッと立ち上がり、『三澄さんを床に座らせるわけにはいきません』と言って思い切り眉間に皺を寄せながら『本当にすみません、失礼します』と言ってソファに座った。里依からこぶし2個分ほど離れたところに、三澄も腰を下ろす。

(お…思ったよりもち、近くに座られたっ…!)

「三澄さん。」
「はい。」
「ひ、肘とか腕とかぶつかっちゃったらすみません。そんなに大きく振るタイプではないですが、何が起こるかわからないので。」
「コーレスとかも全力でやりますか?」
「や、やらないです、さすがに。怜花もいないし。」
「いたらやってる?」
「…やってますけど、それはライビュとか現地だったらの話で、三澄さんが隣にいるという緊張感の中で全力のオタ芸を見せるほどの勇気は…もってないです。せいぜいペンライトを振るくらいで…。」
「そっか。それもちょっと見てみたかったですけど、でもまずは里依さんの装備が見れて楽しいです。」

 三澄はにっこりと笑ってそう言った。里依はいわゆるリングライトを別売りのベルトなどに通して腕にまでつけるようなヘビーな装飾はしない。指に一つずつリングライトをつける程度だ。ペンライトは片手に一本ずつ。今回の公演のデザインのものと、過去のものでお気に入りのものをそれぞれの手に持つ。ワイドバスタオルは推しユニットが全員描かれているものだ。服も現地であればゴスロリもコスプレも特攻服も和装もなんでもありといえば何でもありなのが『スタカラ』だが、キャラに寄せて髪を染めるでも何でもなく、本当に他人の家にお邪魔しても問題ない程度の服装でしかない。せめても、フォーカクのカラーの入ったピアスをしてきたくらいである。

「…あの、私の装備なんて全然大したことないですよ。現地にはもっとすごい人がたくさんいますから。」
「もっとすごい人がいるかもしれないけど、里依さんがどういう風に楽しむのかが知りたかったんです。リングライトをどの位置につけようかちょっと考えたりとか、歴代のリングライトを大事にしていたりとか、そういう人となりが、僕がきっと里依さんはこういう風に楽しむんじゃないかなって思ってた形に近くて嬉しいなって。」
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