ファンは恋をしないのです
* * *
音量はお互いの声が聞こえる程度に抑えていた。雨音は確かに強く、雷も時々轟いてはいたが、距離が距離ということもあって声はそれなりにクリアに聞こえた。里依の言葉に胸がきゅっと苦しくなったのは三澄だった。こういう気持ちを、久しぶりに思い出したような気がする。
里依の耳に触れた手に、これ以上力を込めてはいけないことも、例えば抱き寄せたり、正面からぎゅっとしたりしてはいけないこともちゃんとわかっている。それなのにそうしてしまいたくなる衝動がぐっと込み上げて、それをゆっくり飲み込む。そんなことを繰り返している。そんな三澄の心を知るはずもない里依は、あの日のライブに一瞬で思いを馳せることができるようだった。
「…悔しいなぁ。」
「…悔しい?」
おそらく、思いもよらぬ言葉だったのだろう。里依は顔を上げて三澄の方に視線を向けた。そして三澄と目が合うと、すぐさまぱっと、視線をスマホに戻した。
「す、すみません!」
「なんで?こっち向いて話してほしいのに。」
「な、泣いたので…顔がひどくて…不快にさせてしまうかと…。」
「全然そんなこと思ってないよ。目を合わせて話ができた方が嬉しい。」
「…ぜ、善処します。」
少しだけ三澄の方に視線が戻ってくるものの、目は泳いでいる。そんな里依が可愛くて、三澄はまた小さく笑った。
「里依さんは、あの日のステージ上の俺の姿をさ、すっごい目に焼き付けてくれてるでしょ?」
「それははい!もちろんです!」
「なのに俺は、あの日の里依さんのことを覚えてない。絶対視界のどこかにはいたのに。…こんなに真っすぐな、優しくて温かい目で見つめていてくれたのになぁって思うと、ちょっと悔しいなって。」
「それは仕方がないですよ。2万人のうちの1人ですから。三澄さんは16人のうちの1人です。」
「ずっと楽しそうで、本当に好きなんだなってことがよくわかった。楽しんでもらえていることも、噛みしめてもらえていることも嬉しい。きっとあの日のライブの里依さんもこんな顔して観てくれたのかなって、想像したよ。」
「…あの日のライブだと、私、もっと色々感極まってました。特にこの曲では泣けてしまって。」
いつの間にか次の曲に変わっていた。これは2年前に出たシングルのカップリングだった。
「スモハニって元気をくれる可愛い子たちだって思ってたのに、泣けちゃって…焦ってました。だから今日みたいにただニコニコ楽しい!ってだけじゃなかったですよ、本当は。感情がたくさん動いて忙しいからこそよりよく覚えているんだと思います。」
里依は視線をスマホに戻したまま、静かにそう言った。里依の言葉がじわりと三澄の心に染み入った。
音量はお互いの声が聞こえる程度に抑えていた。雨音は確かに強く、雷も時々轟いてはいたが、距離が距離ということもあって声はそれなりにクリアに聞こえた。里依の言葉に胸がきゅっと苦しくなったのは三澄だった。こういう気持ちを、久しぶりに思い出したような気がする。
里依の耳に触れた手に、これ以上力を込めてはいけないことも、例えば抱き寄せたり、正面からぎゅっとしたりしてはいけないこともちゃんとわかっている。それなのにそうしてしまいたくなる衝動がぐっと込み上げて、それをゆっくり飲み込む。そんなことを繰り返している。そんな三澄の心を知るはずもない里依は、あの日のライブに一瞬で思いを馳せることができるようだった。
「…悔しいなぁ。」
「…悔しい?」
おそらく、思いもよらぬ言葉だったのだろう。里依は顔を上げて三澄の方に視線を向けた。そして三澄と目が合うと、すぐさまぱっと、視線をスマホに戻した。
「す、すみません!」
「なんで?こっち向いて話してほしいのに。」
「な、泣いたので…顔がひどくて…不快にさせてしまうかと…。」
「全然そんなこと思ってないよ。目を合わせて話ができた方が嬉しい。」
「…ぜ、善処します。」
少しだけ三澄の方に視線が戻ってくるものの、目は泳いでいる。そんな里依が可愛くて、三澄はまた小さく笑った。
「里依さんは、あの日のステージ上の俺の姿をさ、すっごい目に焼き付けてくれてるでしょ?」
「それははい!もちろんです!」
「なのに俺は、あの日の里依さんのことを覚えてない。絶対視界のどこかにはいたのに。…こんなに真っすぐな、優しくて温かい目で見つめていてくれたのになぁって思うと、ちょっと悔しいなって。」
「それは仕方がないですよ。2万人のうちの1人ですから。三澄さんは16人のうちの1人です。」
「ずっと楽しそうで、本当に好きなんだなってことがよくわかった。楽しんでもらえていることも、噛みしめてもらえていることも嬉しい。きっとあの日のライブの里依さんもこんな顔して観てくれたのかなって、想像したよ。」
「…あの日のライブだと、私、もっと色々感極まってました。特にこの曲では泣けてしまって。」
いつの間にか次の曲に変わっていた。これは2年前に出たシングルのカップリングだった。
「スモハニって元気をくれる可愛い子たちだって思ってたのに、泣けちゃって…焦ってました。だから今日みたいにただニコニコ楽しい!ってだけじゃなかったですよ、本当は。感情がたくさん動いて忙しいからこそよりよく覚えているんだと思います。」
里依は視線をスマホに戻したまま、静かにそう言った。里依の言葉がじわりと三澄の心に染み入った。