ファンは恋をしないのです
* * *

「里依さーん…。」

 遠くの方で三澄の声が聞こえる気がする。しかしそんなはずはない。確かにアプリのアラーム音は朋希の声にしているが、聞こえる声は朋希のものというよりは三澄の声に近い。三澄の声が聞こえる…としたらそれは幻聴のはず。
 朝の光に導かれるように目を開けてもなかなか焦点が定まらない。

「ん…?」
「里依さん?」

 幻聴ではない三澄の声に視界がはっきりとしてきた。ほぼ眼前と言ってもいいところに三澄の顔がある。

「三澄…さ…ん?…!?」

 がばっと起き上がると急激に顔が熱くなった。

「な…な…なんでっ…。」
「あっ、誤解しないでね!里依さん起きてるかなって覗きにきて、ちょっとここに座ったら里依さんが寝返りを打った時にその…手をね…。」

 手と言われて自分の手の先を見つめると、里依の手が握っているものは三澄の指だった。パッと離すが、顔の熱はさらに上昇するだけだ。

「っ…すみません!な、なんでこんなことっ…すみません!本当に!」
「いや…普通にご褒美っていうか…嬉しいことだから謝らないで、里依さん。昨日からずっとほんと、嬉しいしかないので。」
「はっ!待ってください!ここはあのもしかして…三澄さんが本来寝るべきだった…。」
「いや、どう考えても冷えてたの里依さんだったから里依さんです、ここで寝るべきだったのは。俺もちゃんとソファで寝たし、大丈夫。」
「…す…すみません。」
「そんなに謝らないで。停電も直ったし、雨も止んでる。ね?里依さんが怖いことはもう全部ないよ。」

 三澄の笑顔に、里依の心臓が鳴る。鳴らしてはいけない音がした、気がする。

「朝ご飯、一緒に食べよ?スクランブルエッグとフレンチトーストでどう?」
「お、お手伝いします!というか私やります!」
「じゃあ一緒にやろう?」

 コクコクと里依は頷いた。頬が熱い。気恥ずかしくてうまく三澄と目が合わせられない。そんな里依を見て小さく微笑んだ三澄は、すっと里依の手を取った。

「キッチンまで一緒に行こう?あ、言い忘れてた。」
「は、はい。」
「おはよう、里依さん。」
「おはよう…ございます…。」

 消え入るような声になっていく里依に、三澄は再び微笑んだ。
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