ファンは恋をしないのです
「ライブの俺って、そりゃ三澄を見に来てるわけじゃん?」
「…じゃなくて。」
「推しなのはどっちかっつーと俺のユニットだったわけ。」
「あ、へぇ、なるほど。」
「そういうことです。」
「それなのに、どうしてそれが『俺を見つけてくれた』になるの?」
「二階堂とよく行く居酒屋の少し離れた席で、あのライブの時の俺の話を目をキラキラさせて話してたんだ。」
「えぇー!すごい偶然!」
「たったそれだけで片思い?」

 御堂が怪訝そうな顔で三澄を見つめた。御堂は顔はかっこいいのに女性はやや苦手なようで、本当に突然結婚したようなイメージだった。声優は声優同士で付き合ったり結婚したりすることが多いが、御堂が誰かと付き合っているというのをほぼ聞かないうちに、いつの間にか結婚していた。

「…それだけじゃないっていうか、偶然が重なって居酒屋でまたばったりとか、二階堂いたときもあるけど、二階堂なしでもばったりもあって。」
「は?それ初耳なんだけど!」
「だってすぐからかうじゃん、二階堂。」
「ちょっとかわいいもんね、なんか。からかいたくなる気持ち、わかるかも。」
「うわ、空野もそっち側じゃん、やっぱり。御堂とさし飲みにすればよかった。」
「まぁ、そう言わずに。それで、御堂に何が聞きたいの?」
「なんで俺への質問をお前が引き取るんだよ。」
「口下手な御堂に代わって答えられるものは俺が答えておこうかなって。」
「余計なことすんな。」
「いてっ!」

 再び三澄は深いため息をつく。御堂の相手は御堂の熱心なファン。その熱心さに、ファンとしての気持ちと恋愛感情を共存させていたタイプの方なのかもしれない。しかし里依は辛うじてファンではあるかもしれないが、そこに恋愛感情を混ぜようとは決してしないだろう。

「…ファンは恋をしない、声優に。…っていう強い気持ちは、崩せるのかなって。」

 あの1日が、ずっと胸にある。里依は怖い思いをしていたのだから、こんな風に宝物みたいに思ってはいけないのかもしれないと考える気持ちもあるが、それでもあの日、一緒に過ごせたことが嬉しかった。意図しなかった表情を見れたことが、そして触れた手が、忘れられない。
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