ファンは恋をしないのです
「…崩せるんじゃね?」
「え?」

 御堂のつっけんどんな言い方に含まれるわずかな優しさに、三澄は静かに顔を上げた。

「ファンを好きになることはねぇって思ってて、そういう態度を貫いてたけど、最終的には崩された。」
「…御堂が?」

 御堂は少し悔しそうに頷いた。そんな御堂をにやにや顔で見ているのは空野だった。

「結局好きだっつー気持ちは恋愛だろうがそうじゃなかろうが強い。そういうポジティブな感情を突っぱねられるようにできてない、人間は。」
「そりゃそうだよねぇ。だって嬉しいもん。作品が好きです、キャラクターが好きです、声が好きです、どの『好き』も嬉しい。でもその中で『あなたが好きです』の力は最強だよ。」
「…そっかぁ。」

 言葉を尽くして、態度でも表して、『好き』だと伝えるしかないんだ、と悟る。だがきっと、やりすぎると逃げてしまう。様々な顔を知って、少しだけ近付いた気持ちになって、前よりももっと近付きたいと思うたびに我慢するのが苦しくなりそうだ。

「まぁ、あんまり攻め攻めでいくと走って逃げちゃいそうなくらい真面目な人だよな。」
「うん。」

 二階堂の言葉に、三澄は同意を示した。そう、きっと彼女は全力で距離を取ろうとするだろう。だからおそらく、理性では抗えないくらい好きになってもらうしかないのだ。自分の『好き』を知ってもらって、『声優は恋をする』ということをわかってもらう。

「…声優は恋をするのです、…里依さん。」

 再び突っ伏した三澄は、誰にも聞こえないような小さな声で呟いた。

「よしっ!じゃあ三澄が両想いになれるように祈願して飲むぞー!」
「なぁ、帰っていい?」
「御堂付き合い悪っ!」
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