ファンは恋をしないのです
* * *

「泊まったぁ!?」
「しー!声が大きい!」
「名前出してないからセーフでしょ。」
「私がやってしまったことは全部アウトだよぉ…。」

 多分、脳内から完全に消去しなくてはならない記憶が多すぎる。家の間取り、実はたくさん持っているキャラクターグッズ、シンプルな雑貨、自炊はするタイプであるということ、向けられた笑顔、耳を塞いでくれた手の優しさ、声の甘さ。一つも忘れることができなくて、動きを止めると丁寧に一つずつ思い出しては赤面することを繰り返している。忘れなくてはならないと思えば思うほど、確かな記憶として刻まれてしまう。

「あー…はいはい。あの停電の日ね。そっか、その日になってたんだ。てっきりその前日かと思ってた。」
「…前日だったらちゃんと帰れたのにね。」
「それで、何かあった?急接近的な?」
「…醜態をひたすら晒した。」
「醜態?」
「…失礼なことばっかりしちゃって…あと、お借りした衣類とか全部返すタイミングを…ずっと逃してる。」

 翌朝、三澄と一緒に朝食をとり、一緒に出るのはまずいと里依が申し出たため、里依が先に三澄の家をあとにした。里依が使用したものは後日洗ってお返ししますと咄嗟に言い、そのまま持ってきて、帰宅途中にまた会わなくてはならない事象を発生させた自分に気付いて、壁に頭を打ち付けたい気持ちになった。そして早3週間が経とうとしている。LINEは家に着いたかどうかを確認するものが三澄から来て、それに返信をしてそれきりだ。里依がずるずると返しに行きたいという旨を伝えられないままここまできているのだ。

「もう洗ってあるんでしょ?最悪、お家まで行かなくても居酒屋集合とかさ。」
「居酒屋に来てくださいって?そんなの言えないよ!」
「じゃあ里依が行くしかないけど。長々持ってるのもなんかもやもやするんでしょ?」
「…うん。だって、これ絶対、私が持ってていいものじゃないもん。」
「そんなことないと思うけどね。あと多分、三澄さんは里依から連絡きたら嬉しいと思うし。」
「なんで?」
「なんでって、三澄さん、いつだって里依の話楽しそうに聞いてたし、恋愛的にかどうかはさておき、人としては里依のこと好きだと思うし。だからもっと力抜いて、返したいんだけどいつなら大丈夫ですかって聞いてみたら?」

 サバサバした性格の怜花がこういう時には眩しくて羨ましい。どうしても思考回路はあまりポジティブな方向には回ってくれない。
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