ファンは恋をしないのです
「よし、今連絡しよう。」
「い、今?」
「だって家に帰って一人になって、やりますか、あなた。」
「…やらない、ねぇ。」
「はい、スマホ出しな。」
「…はい。」

 怜花に詰められて、里依は静かにスマホを取り出す。あの日以来触れようとして触れられないでいた三澄のトーク画面をタップした。

「はい、私が言うとおりに打ちなさい。」
「…そのまま送るかはまぁ…わかんないけど、いいよ、言ってみて。」
「『こんばんは。三澄さんにお会いしたいのですが、ご都合の良い日はありますか?』
「待って!」

 あまりに直球な言葉に『こんばんは』まで打ったところで里依はがばっと顔を上げた。

「何?」
「何って、お会いしたいってだめでしょ!」
「何で?だって会いたいでしょ?」
「…む、難しい。」
「何が難しいの?」

 今日の怜花は多分、里依の退路を塞ぐためにいる。少しきつい目つきの怜花が、里依をまっすぐに見据える。

「…三澄さん、本当に素敵な方で…。」
「うん。いいじゃん。」
「…でも、私は普通の人で。」
「向こうだって宇宙人じゃないよ。同じ地球人で日本人。普通の人でしょ。」
「でも、…ファンの方が、それこそその…それがいいかは別として、恋愛的に好きで応援してらっしゃる方もおそらくはいて。」
「うん。」
「だから…私は…その、連絡先を知ってることもきっとよくないし、自分から連絡をしちゃだめだって思ってる…ところはあるんだけど。…でも、怜花が言うみたいに…会えたらなとか、…思ってしまう自分が、今一番嫌…なんだよね。」

 あの日を思い出して嬉しくなったり恥ずかしくなったりする。それは温かい気持ちだけれど、その反面、これはダメなんだと思う気持ちもずっとある。三澄の言葉を疑っているわけではないが、熱心なオタクが物珍しく見えただけという可能性もないわけじゃない。

「…いいじゃん。会いたい、もっとお話がしたい。それの何がダメなの?里依が会社員で向こうが声優だから?じゃあ里依が声優で向こうが会社員だったらよかった?そういうことじゃなくない?」
「…質問攻めぇ…。」
「だーって里依がずーっと逃げるからでしょ?何をそんなに怖がってるのよ。」
「…怖いよ、それは。三澄さんがいい人だから、余計。私のせいで何かトラブルがあったらとか、そういうことを考えちゃう。何がトラブルの種になるか、わからないから。」

 里依はテーブルに突っ伏した。そんな里依を見て、怜花は呆れたように笑った。
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