ファンは恋をしないのです
8.折衷案はドライブデート
* * *

「…はぁ…。」

 家の近所の公園の前で、里依は改めて自分の服装を確認した。ゴールデンウィークが終わり、朝晩はやや冷えるが昼間は暖かい時期になった。ベージュのロングフレアスカートに白のトップス、寒さ対策にブルーのデニムのジャケットを羽織って立っているが、ずっとそわそわしてしまう。ずっとというのは、ここ1週間はという意味である。
 人気のない道に一台の車が入ってきた。里依の目の前ですっと止まったそれには、三澄が乗っている。

「お待たせしました!」
「…お、お世話になります…。」
「安全運転でいきます。」

 里依はそっと、助手席に腰を下ろした。三澄の休みに里依が合わせる形で有休をとり、人目が少ないであろう平日に出かけることとなった。ほとんど三澄に押し負けたと言っても過言ではない。

「あ、あの、この中で三澄さんが飲めるものってありますか?」
「ん?」

 里依の持つ袋の中にはコーヒー、お茶、水、野菜ジュースが入っている。

「どれも全部飲めるけど、どうしたの?」
「あの、運転していただくのでせめて快適な運転をと思いまして…でもあの、私のリサーチが足りず、お好きなものがわからなかったのと、本当は何かつまめるものもあった方がいいかなと思ったのですが、車の中で食事は嫌かもしれないなとか色々考えたら、そちらは用意できませんでした。」
「ああ、なるほど。いっぱい気を遣わせちゃったね。ありがとう。じゃあコーヒー、もらいます。」
「はいっ!」

 三澄が笑顔で受け取ってくれて、里依はほっと肩を撫でおろした。

「里依さんも飲んだり食べたり、自由にしていいからね。今日のために掃除したから多分多少は綺麗になってると思うけど、結構飲み食いするからいつもは全然、綺麗じゃないんだ。」

 はは、と照れたように笑う三澄に胸の奥がきゅうっとする。

「じゃあとりあえず、アウトレット目指して出発!」
「は、はいっ!」

 車で1時間ほどで行ける、敷地の広いアウトレット。平日はかなり空いているとの情報を得て、ここに決めた。ちらりと三澄を見上げると、『ん?』と言う三澄と目が合った。

「す、すみません!」
「なんで謝るの~!緊張しないでって言ってもいきなりは無理かもだけど、ゆっくりたくさん話せたら嬉しいな。俺も、里依さんが好きな飲み物も食べ物も知らないし。教えてほしい。」

 朋希と重なるところを見つけては嬉しくなっていたはずの心は、いつの間にかどこかにいってしまっているようだった。今はもう、朋希と重なるところの方が見つけられない。二人は全く、違う人だ。
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