ファンは恋をしないのです
「あ、ありがとう…ございますっ…。すみません、いちいち過剰に照れてしまって…。」
「ううん。今、押してるところだから、そうやって反応してもらえると結構嬉しい。」
「押してる…?」
「うん。周りの友人たちからのアドバイスを参考に、里依さんに猛アタック中です。」
「へっ!?」

 顔の熱が引かなくなってしまうことが確定する一撃を受けて、里依は両頬に手を当てた。わかっていたが熱い。

「手を繋ぐのは、アリですか?ナシですか?」
「な、なしです!」
「そっかぁ、残念。」

 緊急事態だったから、手を繋いでもらっただけ。あれは仕方がなかった。
 だが今は、仕方ない状況じゃない。気持ちがなければ、繋げない。気持ちがあるということを示してはいけない。気持ちがあるわけではないのだから、と言い聞かせる。

「あ、ここ入ってもいい?」
「はいっ!」

 三澄が指したのはトレーニングウエアやシューズの専門店のようだった。ロゴを見ると、様々なブランドのものを総合的に取り扱っているように見える。里依は三澄に後れを取らないように少し歩調を速めた。
 店内は店員も客も少なく、BGMが静かに流れているだけだった。三澄と里依の間には適度な距離ができ、里依は離れすぎないように、それでいて近付きすぎないようにと考えて歩く。三澄といえば、ウエアのコーナーを素通りし、シューズのコーナーに向かおうとしている。

「おぉ、結構あるね。」
「そうですね。これって、デザイン以外に何が違うんだろう…?」

 里依はそう言って、商品の詳しい説明が書いてあるパネルをまじまじと見つめた。足への負担が少ない、長距離を走っても疲れにくい、底に工夫があって滑りにくい、例を挙げたらキリがないほど様々なことが書いてある。試しに手前にあるものを手に取り、靴底を見てみると確かに思っていた以上にぼこぼこしていた。

「何かいいのあった?」
「あ、いえ。このぼこぼこは多い方がいいとか、そういうこだわりはありますか?」
「滑りにくい、あと靴擦れしにくいのがいいかな。」
「た、確かに足を怪我されたら大変ですもんね。」
「…里依さんってさ。」
「はい?」
「友達と一緒でもずっとこんなに真面目なの?」
「ま、真面目ですか、私。」
「うん。だって、ずっと一生懸命でしょ?アウトレットのことも調べてきて、俺の無茶振りにも一生懸命応えようとしてくれてさ。真面目で可愛い。」
「あ、あのっ…その、可愛いは…あの、何とかしてもらえないですか?」
「何とか?」
「う、嬉しいは…その、嬉しいです、可愛いって普段、言われないですし。だけどその、耳が過剰に美化して拾ってしまうので…。」
「拾ってよ。全部本心だし、ずっと可愛いって思ってるよ?」

 三澄はこの『可愛い攻撃』をやめてくれるつもりはないらしい。そう来るならば、里依にも考えがある。
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