ファンは恋をしないのです
9.静かに響いた本音
* * *

「は~楽しかった!」

 時間はあっという間に過ぎ、帰宅のために車に乗り込んだ。座ると、少しだけ足がジンジンする。それなりに歩いたし、緊張もあってか疲労もしていたようだ。緊張だけではない感情のせいで、足の痛みは今更やってきた。

「楽しかった?」
「は、はいっ!楽しかったです。食べ歩きも思ったよりもできて、ちょこちょこ満たされたって感じです。」
「里依さんが楽しかったなら良かった。…じゃあ、出発します。」
「お疲れのところすみません。あっ!車で飲めるもの、何か買ってくればよかったですね。喉乾いたりとか、ちょっとつまみたいなとかありませんか?大丈夫です?」

 慌てる里依を見て、三澄はくすっと笑う。笑いに気付いて、里依はきょとんとした表情を浮かべた。どういう意味の笑いなのかわからない。

「大丈夫大丈夫。ずっと気遣ってくれてありがとね。」

 アクセルがゆっくりと踏まれ、車が動き出す。BGMは行きの続き。窓の外を流れていく景色は行きとは違って、ライトがちらちらと視界を揺らす。普段車に乗ることがない里依は、物珍しくて外に視線が奪われた。キラキラしている街を見るのは楽しい一方、夢みたいな時間が終わっていくことになんとも言えない気持ちが芽生えていて、手放しで楽しくはいられなかった。
 窓ばかり見つめる里依を横目でちらりと見ては、三澄も再び笑みを零す。

「外、何か面白そうなもの、あった?」
「あっ!いえ…私があまり夜に出歩かないっていうのと、車から見る景色が見慣れなくて、大体のものが珍しいって思っちゃってる状態です。」
「そっか。…じゃあさ、遠回りして帰りたいって言ったら、困る?」
「へっ…?」

 ぱっと移した視線の先の三澄は、前を向いて運転している。そんな横顔を見つめて、里依は胸の前でぎゅっと両手を握った。
 沈黙が落ちる。BGMが優しく車内の静かさを包んでくれる。どくんどくんと心臓が一度に大きく動くのを感じる。

(…まっすぐ、帰る。それが、ファンとしての正解。だけど…。)

「…私も、もう少し、…その、お話、したいです。…すみません、名残惜しいなんて思ってしまって。」
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