ファンは恋をしないのです
「うん。真面目で優しくて、好きなことにひたむきで。だから余計さぁ、嬉しくない?二階堂が言ったみたいに、正しいファンであることを一番に考えてただろうし、多分ずっとそれを考えてると思うけど、それでも、もっと話したいって言ってくれたことが。」
「…三澄の頑張りというか、誠意みたいなのが、じわじわ伝わったのかもね。」

 頬杖をついて、ニヤッと笑いながら空野がそう言った。一度目を瞑ると、あの日の里依の表情が浮かぶ。たくさん笑って、照れて、泣いた。感情がせわしなく動くそれら一つ一つをすくい上げるのが、楽しくて嬉しい。

「…可愛いんだよなぁ…ずっと。」
「そういうことは本人にちゃんと言いなよ?御堂なんか、思ってても言えないんだから。」
「だから!おめぇはなんでいちいち俺の話を入れんだよ。今はこいつの話だろ。」
「いやいや、先に恋を実らせて愛にした先輩じゃん?御堂は。」

 はぁと深いため息を零して、三澄は口を開く。

「御堂はさ、ちゃんと言った方がいいよ、可愛いって。俺は今、あんまり言えないから。」
「はぁ?なんでだよ。」
「あんまり言うとね、多分パンクしちゃう。とはいえ、結構言っててもうその辺で…すみませんって謝られたこともある。」
「謝るべきは向こうじゃなくてお前だろ!」
「いやほんと!御堂のおっしゃる通り。そうなんだけど!さすがに怒ってはくれないよ。無言になって、真っ赤になって、目が合わなくなる。だからずっと、なるべく控えてるの!」
「まぁー…そうだな。恐縮しまくってる感じの人だから、好意があるってことははっきり示していいと俺も思うけど、でもやりすぎたら向こうがパンク…パニック…処理落ち…?」
「うん。時々かたまるときもあるけど、でも割と、普通に話してくれるようになったから。」
「そっかぁ。ファンと言ってもいろんな人がいるねぇ。殊更、唯ちゃんはすごかったねぇ、御堂。」
「知らん。」

 生姜焼きを口に放り込みながら、御堂は空野を無視することに決めたらしい。

「…御堂の場合はさ、唯さんが先に告白した…ってことだよね?」
「…あいつの『好き』は『おはよう』と同じレベルだったからな。」
「えぇーすごい!」
「めっちゃ愛されてんじゃん、御堂。」
「でもさ、そうじゃなくて本気だってわかったから、御堂も何か返したっていうか、告白したんだよね?」
「…忘れた。」
「絶対忘れてないじゃんそれ!」
「なんだよ、お前の場合はお前が告白する以外に話は動かねぇけど。」
「うん。まぁだから、言ったよ、ちゃんと。」

 あまりにあっさりとした言いぶりに空野はあんぐりと口を開けた。
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