ファンは恋をしないのです
「え…えぇー!?もう告白…?」
「お前ら的にはもうって感じかもしんねーけど、俺ら的には…半年以上経ってね?」
「あ、そんなに前?」
「うん。頻繁に会ってるとか、連絡とってるわけじゃないから、密度の濃い半年とかいうわけじゃないけど、そうだね。出会ってからは半年以上は経ってる。」
「…ふーん、そっかぁ。でもさっきの感じだと、言うつもりで行ったデートってことじゃなくて、行ったら口から出たって感じ?」
「…多分、結構都度、言ってたんだけどね。仲良くなりたいとか、そういうことは。でもはっきりとわかりやすく伝えないと本気にしてくれないっていうか、…うーん、ちゃんと話は聞いてくれてるんだけど、自分がそのフィールドに上がることが意外って感じだった。」

 『…私を…好き…?』と口にした里依の表情は、照れてもいたが、驚いてもいた。自分がそんな恋愛感情を向けられるはずがないと信じ切っているようにも見えた。声優がファンを好きになることはない、と決め切っている気持ちもどこかにはあるのだろう。

「里依さんにとって、どうあがいても一番最初にくるカードは『ただの俺』じゃなくて『声優という俺』なんだよね、多分。それを、ちょっと崩していかないと伝わらないかなって。カードの順番を変えてもらうために言ったのかも。」
「そっか。じゃあ、真面目な彼女はきっと順番を変えようと頑張ってくれるよ。」
「そう、かな?」

 海からの帰りの車は会話が続かなかった。里依は一生懸命、自分の言葉をかみ砕いて、飲み込んで、どんな答えを出せばいいか考えあぐねていたのだろう。静かな車内が苦痛ではなかった。少なくとも三澄は。だが、悩みの種を増やしてしまったのであれば罪悪感がある。そう思って、言葉を重ねた。『返事をくれてもくれなくてもいいし、くれるとしても急いでない。全部、里依さんが伝えたいって思った時で大丈夫だから。』と。里依は静かに頷いた。最後に見た表情は笑顔で、それも一生懸命頑張って微笑んでくれたのだとわかる笑顔だったから、余計に愛しさだけが増した。

「んー…関係をね、ちょっと変えたいって欲が出るよね…。でも、仕方ない。悩ませることに申し訳なさはあるけど、こっちは好きで、好きになってもらいたいんだもんなぁ。」
「はぁー…青春ですねぇ…いいわぁ。」
「既婚者組は呑気なもんだな。いいご身分。」
「二階堂はなんかないのー?」
「俺は三澄と違ってこんなにピュアでもなんでもないんで。」
「あー!可愛くない!」
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