ファンは恋をしないのです
「怜花は言語化が上手だね。…私は、全然だめだ。上手に言おうと思えば思うほどごめんなさい、すみませんしか出なくて。謝りたいわけじゃないのにね。顔を見るとどうしようもないくらい息が詰まって、苦しくてっていう瞬間もちゃんとあるのに、…やっぱり嬉しいんだよね。お話してくれることも、名前を呼んでくれることも。…ファンに対しての顔じゃないって、ちゃんとわかってるのに、ずっと臆病で…やんなっちゃう。」

 里依は新しく来たジョッキに手を伸ばし、半分ほど一気に飲んでしまった。

「おーい飲みすぎだぞー。」
「どうせ酔わないもん。」
「あのさ、里依。」
「ん?」
「今度は里依が呼んだら?家に。」
「えっ!?」

 突然の提案に里依はがばっと上体を起こした。

「人目がない方がゆっくり話せない?向こうの家にお邪魔したいんですって言うよりも楽だし。自分の家の方が使い勝手もわかるし自由に動けるし、何か仕込むならそれもできるしさ。」
「…そう、だけど。」
「返事しないってことを、このままにしておくのはよくないって思ってるし、どうにかしたいんでしょ、里依は。」

 長年の友人というものは、こういうときに強い。怜花は真っ直ぐに里依を見据えて、微笑んだ。

「見た目がネックでって言うなら、考えがあるよ、私に。」
「考え?」

 里依の淀んでいた目が少しクリアになる。怜花がニッと笑って、里依を見る。

「当日、めちゃめちゃ可愛くしてあげる、里依のこと。」
「えっ!?」
「見た目に自信がついて、懸念事項一つ減って向き合えるなら、やるべきじゃない?」
「いやでも…休みの日にわざわざ来てもらってっていうのもさ…。」
「一世一代の勝負所じゃん?多分三澄さんは、里依がどんな格好で何を言っても耳を傾けてくれる人だと思うけど、里依が自信が一つでも多くあった方が頑張れるっていうなら、つけてあげるよ、自信。…絶対、可愛くしてあげる。」
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