ファンは恋をしないのです
* * *

 怜花と別れ、家に帰り、シャワーを浴びて髪を拭く。怜花は『三澄さんに話すも話さないも里依が決めな、里依のことなんだから。でも、協力してほしいならそれもちゃんと言って。遠慮はなし。わかった?』と強めに言い残して、いつも通りかっこよく帰っていった。見た目を強化してもらえたら、少しは向き合えるのか…と考えてみて、たとえば気持ちを伝えるなら、それは当然、少しでも可愛くて綺麗な自分でいたいとは思う。

「…頑張らなきゃ。」

 いつでもずっと、待たせすぎている。待ってくれることに甘えてはいけない。そう思って、里依はスマートフォンに手を伸ばした。いきなり電話は出来なくて、そっとタップし、文字を打ち込んだ。

『遅くにすみません。あの、少し相談したいことがありまして、通話ができるときがあったら教えてもらえますか?』

 送ったすぐそばから、着信が返ってくる。慌てて通話ボタンをタップし、机の上にスマートフォンを置いて、里依はその前で正座をした。スピーカー状態にすることは忘れずに。

「もしもし?里依さん?」
「こ、こんばんは!」
「こんばんは。…あれ、なんか里依さん、声が遠い?」
「はっ、す、すみません!あの、スマホを置いてスピーカーにしてて…もちろん正座してます!」
「いやいや!そんな家にいるときまで緊張しなくていいから!もっと楽に話そうよ。」
「いえっあの…前まで耳に当てて聞いていたんですけど…その、声が近くって…。」

 電話をしているのだから当たり前だ、声が近いのなんて。しかし、その声の近さが里依の心拍数を思っていた以上に上げた。電話越しの三澄の声はいつもと何も変わらないのに。

「声、大きかった?可愛いとかそういう、里依さんがびっくりしちゃうこと、言ってなかったよね?」
「あっ…はい…ただその、甘い言葉…って言っていいのかわからないんですけど、そういう言葉があったかどうかっていうよりは、三澄さんの声自体が甘いみたいな…ところがありまして…。」

 しどろもどろに白状する。すると、電話の向こう側が沈黙した。三澄が黙ることは珍しくて、里依は焦る。

「み、三澄さん…?」
「…今のは可愛すぎない?さすがに。」

 耳に当てていないはずなのに、声が静かに甘く響く。焦ったような、上ずったようなあまり聞いたことのない三澄の声は、いつもよりも深く里依の耳に残った。
< 68 / 87 >

この作品をシェア

pagetop