ファンは恋をしないのです
11.最大限の勇気とおもてなしを
* * *

「よしっ!可愛くできた。可愛いよ~里依~!」
「…ありがとう…。」

 派手すぎないが、いつもよりもくっきりとした目元のメイクのおかげで目は大きく見える。髪は毛先がくるりと巻かれていて、柔らかな印象の仕上がりだ。里依がいつもかけている時間と同じくらいの時間でこれができあがるのだから、怜花はすごい。尊敬の眼差しで怜花を見つめると、怜花はいつもと同じように笑った。

「私ってば最高傑作!もー!本当にメイクが上手い!」
「ほんとだよ~!すごい!別の人みたい!」
「いつもよりそうだなぁ…キリっとするようにしたっていうのかな?里依、ふにゃっとしてるから、意思をはっきり言います!みたいな顔にしておいたよ。」
「た…助かるよ…頑張る…。」

 夕方から三澄が来る。先日の電話から2週間。三澄がお昼にイベントに参加したのちに来るとのことだった。もっと先になるかと思っていたが、『里依さんのお家に行けるの、俺が先延ばしにできない』と言われては里依も弱かった。
 鏡を見つめる里依の両肩に、怜花がそっと手を置いた。

「…そんな顔しないの。三澄さんはきちんと話を聞いてくれる人でしょ?」
「…それは、うん。…ただ、忙しい時間を縫ってわざわざ来てくださるから…ちゃんと、言いたいなって思うと…力む。」
「力むって。力入れても入れなくても、里依の言葉は届くから。いつもよりうーんと可愛くなった里依で、まず三澄さんをドキドキさせるところから始めなさい!」
「…いや、いつもこっちがドキドキしてるし、焦ってるんだよ…。」
「ま、それもそうか。多分三澄さんも結構焦ってるとき、あると思うけど…まぁ、里依に余裕がないんじゃそれに気付けないかもね。」
「おっしゃる通りで…。」

 里依のスマートフォンが震えた。着信の相手は話題の三澄だ。

「も、もしもし!」
「さっき終わったので今から行けるんだけど、もう向かっても平気?」
「大丈夫です!」
「あ、里依ー!私も話したい!」
「えっ!?」

 里依の隙をついた怜花は、里依のスマートフォンを取ってにこやかに話し始めた。

「もしもし?お久しぶりです。今日の里依、私がすっごーく可愛くしてあげたので、お楽しみに!いつもかわいいのはそうなんですけど、三澄さんが頭抱えるくらいの仕上がりにしておいたので、期待してお越しください!」
「な、なんてこと言うの!怜花!」
「だってほんとのことだもん~。じゃ、里依に返します。」

 受け取った里依の顔はすでに赤くなっている。くすくすと怜花は笑いながらそれを見つめた。

「…す、すみません。いつもより気持ちしっかりメイクをしてもらったんです。怜花に。でもあの、誇張しすぎているので…怜花は。」
「誇張かどうかは見て確かめるね。…会うの楽しみ。じゃあ、またあとでね。」

 いつも通りの優しい声。でもいつもより少し楽しそうに聞こえた声。

「怜花~!」
「可愛い可愛い!怒ってても可愛いんだから、万が一泣いて何も喋れなくなったとしても可愛いよ、自信もって。」
「そんなの全然自信にならないよ…。」
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