ファンは恋をしないのです
「えっと…三澄さん?」
「はぁー…ほんっと…可愛すぎてお手上げです。」
「へっ!?」

 本当に両手を挙げている三澄の頬が赤く見える。それに気付いてしまった里依の頬の熱も上がる。

「里依さんが用意してくれたものなら何でも嬉しいし、全部喜んで食べるよ。そんなに気を遣わなくて大丈夫。むしろこれとこれを用意しました!はいどうぞ!くらいでいいよ、俺になんて。気を遣いすぎて、一緒に居ることを大変だって思われる方が困るよ?」
「いえっ…あの、気を遣っていないわけではもちろんないのですが、それを大変とは少しも思ってないので…はい。だから…あの、一緒に居ることは全然、大変じゃ…ないです。」

 今の里依の精一杯で返す。これ以上三澄の方を見つめられなくなった里依は、フライパンの中に視線を向ける。丁度よく焼けた片面を確認し、割れてしまわないようにひっくり返す。

(よしっ…!崩れなかった!)

 失敗せずにひっくり返すことができて安堵し、少し頬の熱も収まって、再び三澄の方を見る。すると、やや頬が赤いまま、それでも優しい眼差しを向けてくれる三澄が目に入った。

「料理し慣れてるね、なんか。今度は一緒に何か作りたいな。ちょっと凝ったもの、作ってみたいかも。」
「こ、凝ったもの?私、普段あまり凝ったものはやらないというか…。」
「俺も全然やんないけど、作業分担したらそこまで大変じゃなくやれそうなやつにしようよ。こっち側で里依さんを見てるのも楽しいけど、横にも立ってみたい。」
「わ…私が緊張して…その、慣れるまで少しお時間いただいてしまうかもしれませんが…それで良ければ…。」
「少しの時間で慣れてくれるの?もしかして俺、ちょっと里依さんに近付けてる?…ちょっと、慣れてくれた?前よりは。」
「はいっ!えっと…多分…最初に出会った時よりは…しどろもどろにならずに話せるようになったと思っているんですけど…大丈夫ですか?」
「里依さん、最初からずっとしっかり話してくれてるよ。目も、前より合うようになった。…いつも頑張ってくれてありがとね。」

 三澄の声が、多分今まで聞いた中で一番の甘さをもって響く。里依の中に、聞いたことのない三澄の声のバリエーションが増えていく。それを申し訳ないとか、ダメなことだとは、今は思わない。
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