ファンは恋をしないのです
「キスしたら、逃げちゃうよね、里依さん。」
「んっ…!?にっ、逃げません!」
「ほんとかなぁ?」

 三澄はそう言うと、腕の力を緩めて里依の顔を覗き込んだ。いつもなら泳いでいた目は、三澄の方に真っすぐ向けられている。

「本当です!ちゃんと三澄さんに向き合うって決めて、気持ちも伝えようって思って…全部、話したので…。」

 こつんと額が重なった。再び吐息が触れ合うような距離になり、それでも里依は必死に目を逸らさずに、三澄を見つめた。

「全部話せた?言い残しはない?」
「…はい。今日、一番伝えたかったことは、三澄さんが大切で、大好きってこと…だったので、それを伝えられたから、他のことは…ちょっとわからないです。」
「…そっか。いつも里依さんは正直で、真っ直ぐだね。…そんな真っ直ぐな里依さんに、俺はどこまで触れていい?」
「…どこまで…?」

 額が離れて、里依が少し目線を上げようとした矢先に近付いてきた三澄の唇に、里依は思わずぎゅっと目を瞑った。額に柔らかな感触と、聞き慣れない甘い音が響いて、その熱が離れていく。ゆっくり目を開けると、三澄は頬を染めて微笑んでいた。

「…はぁー…やっぱりここにキスしたら止められないだろうなぁって思った俺が正解だったな。」

 里依の唇に触れた三澄の指。額に集まっていたはずの熱は、気付けば唇に移っている。

「おでこでそんなにぎゅっと目を瞑るんだね、里依さん。そんな顔見せたらさぁ、俺に何されてもおかしくないよ?」
「距離がちか…近くてっ…恥ずかしくて思わず目を瞑っちゃいましたけど、…でも、三澄さんが私に与えてくれるものは何でも、全部、嬉しいです。だからさっきの、『どこまで』は、多分、『どこまででも』って答えになります。…その、唇にキスされても…目は強く瞑っちゃうと思うし、多分硬直しますし、息もできないけど…それは嫌だからとかじゃなくて、…気持ちは嬉しいけど、慣れてないからついていけない…だけ、です。」
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