ファンは恋をしないのです
「へっ!?」
「練習。たくさんしたら慣れてくれるんだよね?」
「えっあの、練習は今日…なんですか?」
「里依さんと過ごしてる時間はずっと練習だよ。俺が里依さんに触れることも、今はまだびっくりしちゃうでしょ?」

 三澄の手が里依の頬に触れる。その手がそのまま柔らかく、里依の唇を三澄のそれへと誘う。さっきよりも長く触れて、そして離れる。

「目、うるうるしてる。長かった?苦しかった?」
「い、いえっ…あの、ドキドキが苦しくて…!」

 三澄の指が里依の頬を撫でた。

「でも、俺がほっぺ触っても最初みたいにぎゅって目を瞑るって感じじゃなかったよ。…そのまま、ドキドキはしててね。」

 三澄の顔が再び近付き、離れる。里依が目を開けると、また視界が三澄でいっぱいになる。

「ん…っ…。」

 キスの間隔が短くなって、呼吸が上手くできなくなって、思わず声が出た。自分の声なのに自分のものじゃないみたいな感覚が恥ずかしくて、耳が痛いほどに熱い。

「やりすぎたね、ごめんね。」

 三澄は里依の目元を撫で、そして頬を撫でてくれた。その優しい温度と視線に、里依の胸はきゅうっとまた苦しくなる。

「今日の練習はここで終わりに…。」

 言葉の続きを塞ぐように、再び顔を近付けたのは里依だった。ちゅ、と小さく音が鳴った。恥ずかしくなってパッと離れて目を開けると、三澄の顔が急激に赤くなっていた。

「ご、ごめんなさい…!あの、ずっと三澄さんにしてもらってばかりじゃ…だめかなって思って…。」

 目の前の三澄は真っ赤な顔のまま、天井を仰いだ。

「あー…待って。里依さんからキスしてくれるの?」
「…全部、三澄さんからだと、三澄さんだけが好きでいてくれるみたいで平等じゃないです。…私も、ちゃんと好きです。」
「はぁー…なるほどね。里依さんの真面目さはこうやって発揮されるのかぁ…。ここまでとは予想してなかったな。」
「ま、またあの私、突飛なことをしちゃってすみません!」
「…全然?嬉しい。」
「…良かった、です。…三澄さんの見たことない顔が見れて、…私も嬉しいです。自分からできたことも嬉し…。」

 里依が言葉を言い終わらないうちに、三澄の腕が伸びてくる。

「はぁー…なにこれ、現実?里依さんがいつでも抱きしめれる距離にいてくれて、抱きしめることもキスすることも受け入れてくれる世界線?」
「ふふ、そういう世界線です!…私は修行中の身ではありますが。」

 里依がそう言って笑みを返すと、三澄は里依の顔を一度見て、照れた顔を隠すように里依の肩に顔を埋めた。
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