ファンは恋をしないのです
「自分からキスできるんでしょ?修行中じゃないよ、全然。もう充分。」
「そうなんですか?」
「そうだよ。里依さんからキスしてもらえるなんて、それこそもっともっと先だと思ってたのに。…俺の予想を全部超えていくね、里依さんは。でも…。」

 里依の肩から顔を上げた三澄は、近くにあった里依の頬に優しく唇をつけた。離れる音が甘く、そして耳の近くで響いて、三澄の顔の赤さが里依にそのまま伝染する。

「…そういうところも大好き。はー…もうほんと、絶対離してあげられない。」

 ぎゅっと抱きしめられた三澄の腕の中で顔を上げると、二人の唇は再び重なった。目を開けると、笑みが零れる。

「『ファンとは仲良くなっちゃだめなんです』って言ってたから、里依さんの中のファンって気持ちと、俺が声優であるということをどう崩したらいいかなって、ずっと考えてたんだ、実はね。」

 三澄の言葉を、里依は静かに引き取る。

「…ファンは恋をしないのだと、してはいけないのだと思っていました。でも、違いました。私、椎名里依は、三澄祥真さんに恋をしたんです。ファンだから声優さんに恋をしたんじゃなくて、…三澄さんだから、恋になった。…という、私の決着です。」

 言い終えると照れてしまう。誠実に言葉を尽くしたいと思えば思うほど、言葉が増えて、恥ずかしいことを言うことになる。それでも、その恥ずかしい気持ちも三澄にならばさらけ出せる。今までもずっと、どんな言葉も拾い続けてくれた人だから。

「…はぁー…もう…すごい、心臓壊れる。ドドドドって感じの音がする。」
「へっ!?あっ!ごめんなさい!あの、は、離れますか?そしたら落ち着け…。」
「離れるわけないでしょ。落ち着かなくていいよ、全然。今ちょっと、里依さんの言ってたドキドキしすぎて苦しいがわかったかも。」
「…多分、私の方が苦しいです、絶対。」
「そんなことないと思うけどなぁ。嬉しいレベル、絶対俺の方が上だよ?だって、里依さんのこと好きだった歴、俺の方が長いもん。里依さんは最近でしょ?」
「…そ、そんなこと、ないです。」
「えっ、そうなの?」
「…き、今日はいっぱい恥ずかしいことを言ったので、これ以上は勘弁してください~!」

 ぽすんと里依が三澄の胸に頭を預け、顔を隠す。そんな甘えが可愛くて、三澄は微笑みながら抱き返す。

「…声優は恋をしますよ、里依さん。」
「ふぁ、ファンだって恋をするんです!」
「うん。だからこれからもずっと、ファンでいて。でもそれ以上に、大事な人のまま、傍にいて。」
「はいっ!これからもずっと、三澄さんのファンです。…そしてずっと、大好きな人です!」

*fin*
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