千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~


 話を切り出そうにもどうしたら良いのか、いい大人とは言え長らく会っていなかった憧れを抱いていた人との車内。緊張する千代子に気を利かせてくれたのか、司の方から話を切り出してくれた。

「ちよちゃんもすっかり大人になって」
「司さんも身長が」
「うん、そうだね。今は184くらいだから高校生の時から結構伸びたかも」
「私の目線よりちょっと高いくらいだったような」

 記憶の中の司と今の司は別人、とは言わないが素敵な男性に見えるのは間違いなかった。本当に……きっとこんな人が身近にいたら女性たちは絶対に放っておかない。自分だって、もし幼馴染に近いこの関係性じゃなかったら司の事を、とそこまで考えた千代子は思考を止める。

(私には今の司さんは眩しすぎる、かな)

 眺めているだけでいい物、と言うのは実際にある。
 手に入れたいとかではなく遠巻きに、そこにいてくれるだけでいい、と言うか。会話を途切れさせないように、それでもゆっくりと穏やかに話をしてくれる司から感じ取れるのは昔と変わらない優しさ。
 予約の時にコース料理を頼んだんだけど、と言う司に多分――それらの支払いは全て彼が持ってくれるのだと分かってしまう千代子は申し訳なさをぎゅ、と膝の上のクラッチバッグの端を握ってやり過ごす。

 到着したのは料亭の門前。もう少し気軽な場所を予想していた千代子は目を丸くさせ、固まってしまった。そんな千代子にさりげなく体を屈めて視線を合わせた司は「行こう」と言葉を掛ける。
 現代で、靴を脱いで上がるようなドラマの中でしか見た事のない料亭そのものが千代子の目の前にあった。
 夜と言う時間のせいか厳かさすらある中、客室係に促されるままに千代子の着ていたコートは預けられ、脱いだパンプスも年季のいった靴箱へと回収されてしまう。

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