千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~


 暫くすれば濡れた髪もろくに乾かさずに細身のシルエットの黒いスウェットで現れた司の姿にキッチンに立っていた千代子はまたしても目を丸くさせる。基本、すっきりとしたスーツ姿の司しか見た事が無かった。緩くてもワイシャツとスラックスで、確かにプライベートな下着や肌着などは司が自ら洗濯をしていたが千代子もそのスウェットなら畳んだ事がある。
 パウダールームには千代子に洗っておいて欲しいカゴ、と言う物が設置されていたので仕事で訪れた際にその都度、洗濯乾燥機にかけていた。スーツやワイシャツはクリーニングだった為にタオル類や簡単に羽織れるローブが大半の中、確かにスウェットはあったが本人が着ているのを見るのは初めてだった。

 濡れた髪も、オールバックではない完全に下りている髪も素敵だな、とそのまま少し見とれてしまった千代子は「水を出して貰っても」と遠慮がちに言う司にあわてて冷蔵庫を開ける。常に数本が冷やされているペットボトル内、口が開けてある物を取り出すと「そのままでいいよ」と言われたのでカウンター越しに手渡す。

「ちよちゃん、それは……」
「あ、はい。あの、野菜のお粥なんですけど……少し余っていた野菜があったので、それで」

 よく気が付き、どんな食材も一つひとつ、大切にしている千代子に司は自然と「ありがとう」と言葉にしていた。

 千代子自身はオフの日だと言うのに「仕事ですから」と遠慮しないで欲しい事を伝えてくれて。でもこれがもし、自分たちが恋人同士の関係だったら……千代子はどんな言葉を返してくれるのだろう。

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