千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~
司は考えてしまう。
そしてまた、深い後悔に苛まれる。
エスコートをするでもなく、酔って眠ってしまった女性の体に断わりも無く勝手に触れてしまった男の自分が情けなく思う。
(昨日は本当にどうかしていた。私もウワバミだと呼ばれもしているが酒に弱くなってきたのだろうか)
考えても、過ぎたること。
こんなに酷く後悔をするなら千代子に心の内を打ち明け、その上で彼女が拒否をするか、それとも受け入れてくれるのか、はっきりさせた方が良い。
うやむやなまま、自分勝手な熱だけが日を重ねるごとに滾り、むなしくなるばかりだった。
自分が、ヤクザの息子である事は承知している筈。
しかしながら今、そちら側でどのような立場であるかまでは知らない――伯父の築いた功績で組は武闘派などではなく穏健派であり、会社経営だけをしている事に間違いはないが千代子を危険に曝す可能性はそれでも高い。
今は出入りをしている家政婦としての面しかないが、それ以上の関係性を外部に知られでもして要らぬ争いに巻き込んでしまったら。
(それは、怖いことだ)
司は濡れている髪を少し拭いながら千代子の手元を見る。
「どれくらいにしましょう」
「七分目くらいかな」
「あ、髪はちゃんと乾かしてからですよ」
緩く頷いてまたパウダールームに戻り、言われた通りに髪を乾かす司は自分の顔色……と言うかなるべく平静を装っていた筈の表情がやはりいつもより良くない事に深い溜め息を吐く。
しっかりと髪を乾かしてダイニングテーブルの席についた司は千代子が用意してくれた出来立ての粥をそっと掬う。
真横にあるキッチンでは他の器にもう一食分の粥を移して冷ましながら鍋を洗い始める千代子の姿。下を向いて静かに作業をしている彼女の立ち姿にはやはり美しさすらあった。
洗い物をしながら少し顔を上げて「お夕飯の分も用意してありますから」との優しい声と視線が司に向けられる。
「あ、そっか……」
ふと、洗った鍋の水気を切って拭きはじめる千代子が何か思い出したかのように小さく呟く。視線が向けられたのはいつも作り置きの料理が詰められた保存容器を並べ置いてくれている冷蔵庫。
しかし今日の司の体調はあまり良くない。食欲も無いようで、昨日作ってしまったまだ手付かずの料理たちをどうすべきか司の目からも千代子が少し考えているように見えた。
「ちよちゃん、よかったら半分食べてくれる?」