千代子と司 ~スパダリヤクザは幼馴染みの甘い優しさに恋い焦がれる~


 普段から食材を無駄にしない千代子の考えを汲んでやるように司が声を掛けると「良いんですか?」と返って来る。中途半端に手を付けて、残りを全て処分してしまう事の方が千代子は悲しむに決まっている。
 それなら最初から千代子の食事として渡してしまえばいい。
 タイミングが良いのか悪いのか、今日の千代子は買い物帰りらしく保冷バッグを提げていた。

「それなら司さんの分は温めるだけになるようにお皿に盛りつけておきますね。また明日の分は消化の良い食べやすい物を……」
「ああ、ありがとう」

 どこまでも、気が利く。
 冷蔵庫からおかずの入った保存容器を取り出した千代子は「もし具合が悪かったらすぐに連絡してください。多分、司さんの会社の方々より私の方が家が近い筈なので」と……それは建前なのか、それとも彼女の本音なのか。

 菜箸を手に棚から出した皿にセンス良く料理が盛りつけられて行く。これくらいなら食べられますか、と問う事も欠かさない千代子の優しい気遣いが司の口元をつい、緩ませてしまった。

「ちよちゃんと暮らせたら、な」
「えっ……?」
「あ、いや……今、私は」

 自分は今、何を言った。
 すぐに千代子の方を見れば目を丸くさせて絶句している。やってしまった、と途端に押し寄せる大きな後悔。

 最近、どうかしているのだ。
 本当に自分でも制御が出来ない。
 衝動に任せて口走った事に責任が持てない。

「ご、めん……」

 謝ることすら危ういなんて。
 何か言いたくても言えないでいる千代子の口もとを直視できず、司はまだ残っている粥の器に視線を下げてしまう。

(こんなの、どうかしている)

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