低温を綴じて、なおさないで



栞を独り占めできる権利は、きっと与えられない。

それでも隣にいられる幼なじみという名の特権は死ぬまで手放さない。




最高で最悪な目覚め。永遠に続いてほしい夢への高揚感と、目覚めてしまった絶望感。重い瞼を持ち上げたら、当然そこに栞はいなくて、ベッドサイドのデジタル時計はいつもより30分以上遅い時間を示していた。


ただ、心なしか俺に低い体温に温かさが残っていた気がして、閉めたはずのカーテンも揺らめいていて陽の光が差し込んでいたのが、不思議だった。




それから少し経った頃。当時付き合っていた、もう何人めかの黒髪ショートボブの彼女と別れた。




付き合って恋人になっても両想いにはなれないから、と振られることが大半だったけど、そのときの彼女はすこし違った。珍しく、よく覚えている。



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