低温を綴じて、なおさないで
俺たちの間を通り抜けるように風が吹いた。揺れる黒髪が、やっぱりあのころの栞と重なる。同じ制服、同じ色のリボンが羨ましかったんだ。
「……何か用?」
自分でも驚くほどに、体温と同じくらいに低い声が吐き出された。真咲も上京していたなんて知らなかった。あれから、なんの音沙汰もなかったから。俺から連絡することはもってのほかだったし。
彼女のほうへ完全に身体は向けずに、質問への答えを待つ。
「そんなに冷たい言い方しないでよ。私、なおくんのことずっと忘れられなかったんだから」
大きな目を潤わせて、猫を撫でるような甘い声で縋るような表情。付き合っていたころから全く変わっていない。多くの男は、そしてあいつも、このあざとさに魅了されたのだろうか。
「……嘘はいいから」
「嘘じゃないよ。お手紙も書いたでしょう?」