低温を綴じて、なおさないで
2メートルくらい離れていた距離が、縮まる。俺の腕に自分の腕を絡ませてくるけれど、服という名のバリアが温度を重ねさせない。上目遣いで俺を掬い上げるように見つめる。
これが栞なら俺は一撃なわけだけど、栞じゃないのでちっとも効かない。
渡り廊下を抜ける冬の風は相変わらず冷たくて、栞の高温が恋しくなる。
「引っ越すことになって、なおくんとお別れして、それからもずっとなおくんのこと──」
声を震わすのは、演技だ。瞳の水分も、偽りだ。
……嘘ばかり。あんたは引っ越してもいないし、あいつと、矢野葉月と──
「……直、」
……あぁ、なんてタイミングだよ。