低温を綴じて、なおさないで
「茉耶、お待たせ」
「ううん、ありがとう」
1年前の秋、茉耶と出会ってからこのカフェには何度も来たことがある。レポートを片付けるため、空きコマの時間つぶし、他愛のないおしゃべりのため──特に意味のない日常をここで過ごしたことが頭をよぎって、今度こそ涙が瞳の表面を覆った。
ぼやける視界で、茉耶のシルエットが滲む。ぱたぱたと手のひらで乾かそうとするけど、考えれば考えるほど、水分が送られてきて止まらない。
「泣かないでよ、私まで泣きそう、」
ぼやけてしまって、茉耶が今どんな表情をしているか捉えられていないのに、耳に届けられた声に涙が入り混じっている気がしたから。
目を開けてまっすぐ見つめたら、やっぱり茉耶も今にも泣き出しそうで、そんなわたしたちを見て周りの人も店員さんもぎょっとしていたに違いない。
いつもわたしが頼むココアをあらかじめ頼んでくれていた茉耶にまた、涙が止まらなくなって。
「も、ぜんぶごめんね、謝って許されるわけないけど、でも、ごめんね……っ」
「わたしこそ、最低な嘘ずっと、ごめんなさい、ごめんね、」