低温を綴じて、なおさないで
静まり返った住宅街。わたしたち以外の声が、なにひとつない。語尾を誤魔化してぼやかすことができないけれど、それでいい。
誤魔化せてしまったら意味がないから、まっすぐ届けられるこの状況が最大級。言葉を前に飛ばすけれど、届けたいのは真横のきみだ。
すこしだけ沈黙が流れてから、大きく息を吸って、言葉を作り始める。なお、と心の中で一度だけ練習をした。
「直、わたしね、こんな寒い日でも、アイス食べたいって言ったらいいよって笑ってくれるひとじゃないとね、だめになったの」
どう伝えれば、いちばんきみに伝わるだろう。
閉じ込め続けた二文字を音にすれば一瞬で伝わるかもしれないけれど、その二文字にこれまでの想いを乗せられるとは思えなかった。
「わたし最低だから、恋人ができても全然すきになれなくて、」
今年の春までは付き合っているひとがいた。それでももう、思い出せないくらい薄い関係だった。最低だよね、好きですって告白に対してOKの返事をしているのに、心の中には別のひとがいるなんて。
葉月くんにもし告白されていても、きっと同じだった。彼女になってもいいと思った。けど、彼女になりたいとは思わなかった。
「わたしの思い出は……わたしの記憶フォルダには、恋人じゃなくて直だけいればいいって思ってたし、実際、直との思い出しかないの」