低温を綴じて、なおさないで
わたしの隣に腰を落とした直に軽く腕を広げられてしまって、考える間もなく飛び込んだ。自分の家でもないのに妙に落ち着いてしまうから、気も緩む。緩んでもいい相手だから、というのも大きい。
座り込んで、真正面から遠慮なくぎゅっと抱きしめ合う。恋人としかしてこなかったことを直とできるのがうれしい。
もっとたくさん触れたいなんて、言ったら引かれちゃうかな。いやきっと直は「俺もだよ」って瞳にやさしいひかりを灯して返してくれるに違いない。
「栞、俺のこと、本当に好きなんだ」
「え、うん、もちろん、すきだよ」
急に険しい顔をして確かめるようなことを言うから、反射的にすきがあふれる。一度“すき”を口にしてしまったからか、堰き止める堤防が決壊して、ダムのように留まっていた想いが常時流れ出してゆく。
「あのときの俺に教えてやりたい。栞、俺のこと好きになってくれるよって」
「あのとき……?」
先頭のワードを聞き返すと、言葉ではなく唇が重なった。切なげに一瞬だけ重なったそれで、伝わってきてしまう。