低温を綴じて、なおさないで


「な、直?」


「嬉しい。そのときから俺のこと好きでいてくれたんだ。俺だけじゃなかったんだ」


「そ、それはそうだけど、なんていうか、自己中だなとか身勝手だなとかそういうの思わない?」


「思うわけないよ。純粋に嬉しい気持ちしかないから俺のほうが身勝手かも。あと、あの手紙のことだけど、」




柔らかな眼差しにとらえられ、逃げられない。首に回していた手が取られ、ぎゅっと絡まる。なごやかで甘美な笑みに、心臓がばくばくとうるさくなった。




「最低だけどさ、あの手紙の差出人──真咲のことも全然好きにはなれなくて。そろそろ振られるだろうなって時にもらった。中身には『県外に引っ越すから別れよう。今も好き』って書いてあった」




──県外に、引っ越す。だから別れる。


直からよく聞いていた“振られる理由”とはすこし違った。直はいつも“直が自分を好きになってくれなくて寂しいから別れる”が圧倒的多数だったはず。




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