低温を綴じて、なおさないで
「ああそう、仕方ないねって疑うことなく信じたし、なんとなく手紙をすぐ捨てることもできなくて取っておいた。それが引き金だったなんて思いもしなかった。それで、この話には続きがあって」
「続き?」
「それからすこしして、真咲を見かけた。手紙に書かれた引っ越しの時期はとっくに過ぎたなんてことない平日に、相変わらず栞と同じ制服を着て、男と手を繋いで歩いてた。別にすぐ恋人ができるなんて、他に好きな子がいた俺がとやかく言える立場ではないけど、ぜんぶ嘘だったのか、って馬鹿らしくなった」
それからすぐに手紙なんて破り捨てたよ、と眉を下げながら笑う。
「今となっては、手紙や別れの真意なんてどうだっていいし、俺がこんなふうな以上誰と付き合っても上手くいかなかったと思う。この間会って、俺のことはやっぱり好きじゃないなって伝わってきたし。人の好意が嘘か本物かって結構わかりやすいから」
「……確かに、わたしと話したときも、直のことがすきっていうよりも過去の選択を後悔しているだけみたいにも見えた」
森田真咲がどんな気持ちでわたしに声をかけてきたか。敵意は確実にあって、わたしへ抱く感情はネガティブなものだったと思う。
直のこれまでの彼女たちがそう思うのは当然で仕方なくて自覚はあるけれど、それは彼への好意と直結しない。
仮に今も彼女が直を好きだとしても、わたしだって負けないくらい直がすきで、直もわたしをすきでいてくれているのだから、絶対に負けない。そう考えてしまうのは傲慢すぎるかもしれない。