低温を綴じて、なおさないで
それでもわたしは彼女に対して謝罪もした、直のことを取られたくはないのだと宣言したつもりだ。
直がこのままわたしをすきでいてくれるよう努力するから、ほんとうに直のことがすきだって言うのなら、真っ向から戦うから。
「で、この話の最後。あのとき真咲と歩いてた男が矢野葉月だって気づいた。栞に写真見せられたとき見覚えあったのは、地元なのもあるけど、そのときの印象も強かったんだろうな」
最後、と口にして話を締めた。まさか最後の最後に葉月くんの名前が出てくるとは思わなかったけれど、さすがに至るところで名前が登場しすぎて呆れた笑いが溢れる。
これまた噂で聞いただけだけれど、若くて綺麗な准教授と不倫していたのがバレた挙句、葉月くんにできたらしい高校生の本命彼女、うちの大学の教授の娘さんだったらしく──それが、よりにもよって例の鬼単教授だったもんだから、結構厄介なことになっているらしい。
准教授の講義の単位取消から3年生という早い段階でもらっていた大手企業の内々定の取消もありうるかも、なんてところまでなっている、とか。
もうわたしには関係ないことだけど、厄介に巻き込まれる前に縁がなくなって良かったと心底思う。
手紙のことも、元カノのことも、葉月くんのことも、ぜんぶ過去だ。わたしには、直と過ごす穏やかな未来しか必要ない。