低温を綴じて、なおさないで
今度こそ、わたしから離れて見えなくなった葉月くんが一枚上手だった。
去り際、わたしの頭を撫でるようにぽん、と手を置いたせいで周りから悲鳴のような黄色い声が響いていた。他人事のように遠くで声が響いているような感覚。
余裕そうに口角を上げた葉月くんには勝てないなと思い知らされたような気がした。
わたしが直のことを考えていたことはお見通し。
そのうえで、今度は自分のことしか考えられないように鼓動をはやめる魔法をかけていった。周りのことなんて考える余裕もないくらい、どきどき高鳴る心臓を抑えるのに必死。
葉月くんの置き土産の残った右耳から順番に熱を帯びていく。両手でぱたぱたと手のひらで顔を仰いでいないと熱くて熱くてたまらない。
「……かっこいいな〜、矢野さん」