低温を綴じて、なおさないで




葉月くんに奪われた現実世界に戻してくれたのは目の前に座る茉耶だった。独り言のように呟いた茉耶に視線を動かして。



……視界に映った茉耶が、なんとなくすこし、表情が曇っているように見えて、すぐさま完全に現実に帰還した。




「茉耶? なんか顔色悪い?」


「え、ううん。そんなことないよ。矢野さんのイケメンパワーにやられちゃったかな?」


「そっか。ならよかった。体調わるかったら言ってね」


「うん、ありがと。でも本当に大丈夫」




気のせいだった、と思う。一瞬だけ茉耶の表情が歪んだような気がしたけれど、たぶん、わたしの思い違いだ。


すっかりちょうどよくなった春雨スープを手に取れば、茉耶の唇が小さく動いた。




「ねえ、栞、栞はさ────、」





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