低温を綴じて、なおさないで



線香花火のように刹那、楽しい時間はあっという間で。用意してくれていたファミリーパックの花火は気づいたらすぐにビニール袋だけになってしまった。



最後に火をつけた線香花火、ちらりと隣で同じように線香花火を持つ葉月くんを盗み見た。ぱちぱちと弾ける線香花火なんてどうでもよくなった。


この一瞬だけは確かに、葉月くんに心を奪われていた。誰かといるときいつも必ず思い出す幼なじみが、今この瞬間に至っては頭のなかに現れなかった。




「あ、」




わたしがこっそり見ていたことに気がついた葉月くん。手元に咲く花を映して揺れていた瞳がわたしを映した。暗くてあかりは線香花火だけ。その唯一が、ぱっと消えた。ふくらんだオレンジが限界を迎えて砂浜に吸い込まれていった。交錯する視線、絡まって、すくいとられる。




「……栞ちゃん、」


「な、なんですか」


「はは、なんで敬語なの。いま、どんな表情してる?見せて」




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