恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

 実は、針ヶ谷さんと交際していた時、一度彼の部屋で停電に見舞われたことがあった。

 私はいつものようにフリーズして身動きが取れなかったのだが、針ヶ谷さんはなぜか楽し気に私をその場に押し倒し、暗がりの中でキスを迫った。

『停電の時って出生率が上がるらしいぞ。ま、なんとなく理由わかるよな~』

 なにも見えない恐怖の中、拒絶もできずにただ彼のすること受け入れるしかなかった。抱き合う温かさはあったはずなのに、少しも心が安らいだ記憶はない。

 やがて明かりがついた時、涙を浮かべている私に気づいた針ヶ谷さんはなぜか嬉しそうだった。

『なんだよ、お前も停電に興奮した?』

 怖かっただけなのにまったく意図しない方向に誤解され、人の気持ちがわからない彼のことが本当に無理だと思うようになった。

 その後、私がプロジェクトリーダーになった頃から仕事上での立場が逆転し、少しずつボタンを掛け違えていた関係はもはや修復不可能になってしまった。

 私が言い出す前に針ヶ谷さんの方から『お前みたいに強い女は好みじゃない』と、別れを言い渡され、傷つきながらもホッとしたのを覚えている。

 そんな彼でも告白は向こうからだったし付き合った当初は優しかったのだけれど、どうやら私の容姿だけが好みだったらしい。

 自分好みの女を隣に連れ歩きたいという欲求から私は選ばれたのだと、別れてから噂話が回ってきた。

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