恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「真城さん、部長がお呼びです」
彼は一瞬キョトンとした後、私の意図を察したようにかすかな微笑みを浮かべた。
「わかった。……それじゃ、英会話のことはまたの機会に」
迷惑そうなそぶりは見せず、にこやかに女性たちのもとを離れる真城さん。
もしかして余計なお世話だったかなと思っていたら、近くにやってきた彼が軽く身を屈め、私に耳打ちした。
「部長が呼んでるって嘘だろう? 助かった。ありがとう」
ホッとしたような声がくすぐったい。やっぱり彼は筋金入りの人たらしだ。
「いえ。そろそろ始業時間ですし、私自身があそこで仕事をしたかったので」
彼のために行動したと思われるのは、なんとなく気まずい。あくまで仕事のためと強調するように言うと、真城さんがフッと苦笑する。
「なんだ、そうか。近所のよしみで助けてくれたのかと思ったよ」
「ちょっと真城さん、その話は……」
「冗談だよ。そろそろ行くから、きみも頑張って」
「……はい」
たとえ冗談でも〝近所〟とかあまり口にしないでほしい。
少しの不満は残ったものの、彼は先輩なので顔には出さない。
皺ひとつないスーツの広い背中が見えなくなってから小さくため息をつくと、今度こそオープンスペースでパソコンを開いた。