恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
だから、なにも言い訳せずにただ『ごめん』と謝った。
もう一度彼女にキスできる日が来るなら、きちんとお互いの気持ちを確かめ、神崎さんも俺という人間を求めてくれている、そう確証が持てた時だ。
だから、いくら泊りがけの海外出張だとしても、絶対に無理やり迫るようなことはしない。
俺をけしかけるような部長の言葉とは裏腹に、固く心にそう決めていた。
俺と神崎さんはその後も相棒の立場を貫き、とうとう出張の日を迎えた。
羽田空港からコペンハーゲン行きの直行便に乗るため、昼過ぎに家を出て、玄関先ですぐに彼女と合流する。
「変な感じですよね。直行直帰とはいえ、他の社員とペアだったらきっと空港集合になるのに」
「確かにあまりない体験だよな。どちらかが遅刻する心配もないからいいけど」
マンションの通路を、それぞれ大きさの違うキャリーバッグを転がしながら歩く。
今日の日程は移動のみだからか、神崎さんは動きやすそうなワイドパンツにブラウスを合わせていて初夏の爽やかさを感じる。
彼女は背が高くスタイルがいいので、どんな服でも自分に似合うように着こなせる。
しかし、これまでで一番俺の心を鷲掴みにしたのは、フードに猫耳のついたスウェットワンピースだ。
神崎さんはもらいものだと言って盛大に照れていたが、あのワンピースをプレゼントしたと言う彼女の義理の妹には拍手を送りたかった。
いつか、フードをかぶったところも見てみたい。そのためにはまず、相棒を脱却するのが必須だろうけど――。