恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「……あの、真城さん」
「ん?」
エレベーターに乗り込んだところで、神崎さんが改まったように俺を呼ぶ。
ボタンの前にいた俺が振り返ると、彼女は緊張気味に小さく息を吸った。
「今回の出張が無事に終わったら……話したいことがあります」
大きな瞳には、神崎さんの覚悟が滲んでいるように見えた。
曖昧なままの俺たちの関係に、決着をつけたいという意思を感じる。それが俺にとって、いい話なのか悪い話なのかはわからない。
しかし、神崎さんが心を決めてくれたなら、俺からも伝えたい気持ちがある。
これまでも多少のアプローチは仕掛けてきたが、ハッキリと口にしたことはなかった、きみへの強い想い――。
「俺も大事な話がある。もしかしたら今の関係が壊れてしまうかもしれない。それでも伝えたいんだ。きみはとっくに気づいていることかもしれないけど」
「真城さん……。はい、ちゃんと聞きます。私、もう逃げませんから」
しっかりと頷く彼女は、俺が尊敬してやまない〝カッコいい神崎さん〟だった。
もちろんどんな彼女も魅力的なのだが、弱気になって悩んで揺れても、根っこの部分は強い。そんな彼女の強さを目の当たりにした時、彼女がいっそう輝いて見えるから。
「ありがとう。それじゃ、ひとまずニルセンさんとの契約をものにしないとな」
「ですね。私、ブドウの剪定についてかなり詳しく調べてきました!」
「さすが相棒。頼りにしてるよ」
いつもなら、俺たちの関係に線引きをするために使っていたその言葉を、本来の意味で口にする。
神崎さんにもそれは伝わったようで、「任せてください!」とにっこり微笑んでくれた。