恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「……あの、真城さん」
「ん?」

 エレベーターに乗り込んだところで、神崎さんが改まったように俺を呼ぶ。

 ボタンの前にいた俺が振り返ると、彼女は緊張気味に小さく息を吸った。

「今回の出張が無事に終わったら……話したいことがあります」

 大きな瞳には、神崎さんの覚悟が滲んでいるように見えた。

 曖昧なままの俺たちの関係に、決着をつけたいという意思を感じる。それが俺にとって、いい話なのか悪い話なのかはわからない。

 しかし、神崎さんが心を決めてくれたなら、俺からも伝えたい気持ちがある。

 これまでも多少のアプローチは仕掛けてきたが、ハッキリと口にしたことはなかった、きみへの強い想い――。

「俺も大事な話がある。もしかしたら今の関係が壊れてしまうかもしれない。それでも伝えたいんだ。きみはとっくに気づいていることかもしれないけど」
「真城さん……。はい、ちゃんと聞きます。私、もう逃げませんから」

 しっかりと頷く彼女は、俺が尊敬してやまない〝カッコいい神崎さん〟だった。

 もちろんどんな彼女も魅力的なのだが、弱気になって悩んで揺れても、根っこの部分は強い。そんな彼女の強さを目の当たりにした時、彼女がいっそう輝いて見えるから。

「ありがとう。それじゃ、ひとまずニルセンさんとの契約をものにしないとな」
「ですね。私、ブドウの剪定についてかなり詳しく調べてきました!」
「さすが相棒。頼りにしてるよ」

 いつもなら、俺たちの関係に線引きをするために使っていたその言葉を、本来の意味で口にする。

 神崎さんにもそれは伝わったようで、「任せてください!」とにっこり微笑んでくれた。

< 137 / 199 >

この作品をシェア

pagetop