恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「そんなにずっと文字を読んでいて酔わないか?」
「Just a moment! い、今話しかけないでください! 最後のおさらいをしているんですから」

 こちらをちらりとも見ず、続きを読み始める神崎さん。

 からかうわけではないが、出張先でも仕事に全力投球の彼女を〝かわいいな〟と思う。

 彼女の能力ならなら今さら慌てて確認しなくても大切なことは頭に入っているだろうに、心配症というか、本当に真面目なのだ。

 タブレットを睨む横顔が綺麗で、つい熱い視線を送ってしまう。

 彼女の色々な表情を、もっと近くで俺が独占したい。真剣に仕事をする彼女の隣で、そんな邪なことを考えながら。


「真城さん、神崎さん、ようこそいらっしゃいました」
「はじめまして、妻のアンナです」

 ワイナリーに到着すると、ブドウ畑の隣にある事務所で、ニルセンさん夫妻が俺たちふたりを出迎えてくれた。

 ニルセンさんとはオンラインでは何度か話していたものの、実際に会って挨拶できることがとてもうれしい。

 六十代のニルセンさんはすこし頭頂部の薄くなった褐色の髪、灰色の瞳を持ち、恰幅の良い体格をしている。

 彼より十才年下だというアンナさんは透けるような金色の長い髪と青い瞳が印象的な女性だった。

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