恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
「……走ってこようかな」
正直なところそんなに体力は残っていないけれど、このままひとりで家にいたらどうにかなりそうだ。出張中はまったく運動できていないし、飛行機の中ですっかり固まってしまった体をほぐしたい。
「よしっ」
気合いを入れるためにわざと声に出して呟き、さっそくランニングウエアに着替える。思い切り走って、シャワーを浴びて、それで元気が出たら、なにか食べるものを買いに行こう。
私なら大丈夫。自分の機嫌を自分で取るのには慣れているんだから。
斜め掛けのランニングバッグを胸の前でカチッと留め、シューズに足を入れる。
玄関を出ると、なんとなくそうっと昴矢さんの部屋の前を通り過ぎ、エレベーターで下に降りる。
エントランスにはもう誰の姿もなくホッとした反面、那美さんと昴矢さんがどこへ行ったのか、思いを巡らせてしまいそうになる。
ダメダメ、考えても仕方ないってば。軽く頭を振り、マンションの外に出る。
雨が降っているわけではないが、梅雨も近いからか夜でも少し蒸し暑かった。
デンマークがからっとした気候だったので、日本に帰って来たなと感じる。
これからもっと暑くなって、私の大嫌いな雷も増えて来るんだろうな……。
ランニングに適さない季節がやってきてしまったのを憂鬱に思いつつ、海へ向かうコースへゆっくりと走り出した。