恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる

「好きだよ、志乃」

 彼の気持ちを察していなかったわけじゃないのに、言葉にしてもらっただけで今までとは比べ物にならない感情の波にさらわれる。

 胸いっぱいに広がるのは、幸福と、彼への愛おしさと、いつまでも煮え切れない私を今日まで根気よく待っていてくれたことへの感謝。

 そのすべてをこめて、私もちゃんと言葉で伝えたい。

「私も、昴矢さんが好きです。お隣さんよりもっと近くに、あなたを感じたい」
「ああ。いつもそばにいるよ」

 甘い声で誓ってくれた彼が、両手で私の顔を包み込む。

 キスの予感に目を閉じると、大きな影がかかって、彼の香りに包まれる。

 唇に、やわらかい熱が重なった。

「ん……」

 もう事故だなんて疑うこともない。しっかりと意思を持ったお互いの同士は、何度も何度も離れては吸い付くように触れ、愛情を確かめ合う。

 息継ぎのたびに吐息が熱を帯びていき、体の芯がじりじりと疼いた。もっと昴矢さんを知りたいと、ねだっているかのように。

「……今夜は、俺の部屋に連れて帰ってもいい?」

 昴矢さんもきっと同じ気持ちなのだろう。キスの余韻でかすれた声で、そっと尋ねてきた。冷静を装っているけれど、瞳の奥にちらちらと危うい熱が見える。

 そんな目で見つめられたら、首を縦に振る以外できなくなってしまう。

 ただひとつ気になるのは、長旅とランニングで汗をかいたであろうこの体だ。

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