恋より仕事と決めたのに、エリートなお隣さんが心の壁を越えてくる
重い足取りでなんとかエレベーターホールにたどり着く。そして下行きのボタンに人差し指を伸ばした瞬間、肩が突然フッと軽くなった。
「またひとりで重いものを運ぼうとしてる」
クーラーボックスのベルトを軽々と持ち上げ、あきれたように言ったのは真城さんだ。私を見つめる目は、咎めるような色をしている。
「し、仕方ないんです。針ヶ谷さんが急病で来れなくなってしまったので」
「急病……。それにしても、誰かにヘルプ頼めなかったのか?」
「みんな自分の仕事で手一杯ですから。とにかく、私なら大丈夫ですので返してください。真城さんもお忙しいでしょうし」
「ちなみに、これを持っていくレストランはどの辺り?」
「目黒の西口の方ですけど」
「じゃ、俺が行くのと同じ方向だ。社用車で送っていく」
「えっ? 結構です、そんな……っ」
断りたいのに、真城さんは目の前でドアが開いたエレベーターにさっさと乗ってしまう。
クーラーボックスを返してくれないままなので、私も一緒に入るしかない。
「真城さん、お気持ちだけで大丈夫ですから……!」
「約束の時間は?」
「十時です」
答えながら、腕時計を見る。現在九時半すぎ。浜松町から目黒までは十五分弱。
レストランは駅のほぼ目の前だから、余裕たっぷりとは言えないが、急げば間に合う時間だ。